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『幸せの青い鳥』
「ただいま、マーくん。今日残業で遅くなって疲れちゃったからお惣菜買ってきちゃったぁー。手抜きでごめんね、でもマーくんが大好きなハンバーグだよ。」
………
僕の声は誰の耳にも受け取られず、消えていった。
もう、この家には僕しかいない。
「…あ、あーあ…またやっちゃった……」
二人分のハンバーグが入ったプラスチック容器をビニール袋から取りだし、一人分を青のプレート皿に乗せ、容器を閉じ、冷凍庫を開ける。
冷凍庫にはおかずが入ったタッパーがぎっしり詰まっている。
「……そろそろこれ食べていかないとな…」
マーくんが
いなくなった実感が
湧かない。
もうマーくんはいないのに、
ついおかずを二人分作っちゃったり、
スーパーで二人分の材料を買っちゃったり、
マーくんが好きなお肉ばっかり買っちゃったり。
僕はお肉苦手なのにね。
冷凍庫に眠っている、
この前作った手作りのスコッチエッグが入ったタッパーを取りだし、眺める。
「これ、美味しくできたんだよな…マーくん、きっと喜んでくれるだろうな…。」
この肉団子も、メンチカツも、
きっと、美味しい!って、目を輝かせて…
タッパーに、
ぽとりと
雫が落ちる。
『カツノリさん!カツノリさん!やっと!やっと内定取れましたよ!』
『わぁ!そうだったんだ!!おめでとう!マーくん!!』
『カツノリさんのお陰です!本当ありがとうございました!!』
『そっかそっか!本当良かったよ!…でさ、何処に決まったの?』
『はい!ホドモエシティの……』
ホドモエシティ。
その言葉がマーくんの口から出てきた時、言おうと思ってた言葉が言えなくなった。
―もしこの家から近かったら、このまま、一緒に暮らしていいんだよ―
「…馬鹿マーくん。」
「おや、カツノリさんがお昼にハンバーグだなんて、珍しいですね。」
翌日のバトルカンパニーの昼休み。
隣のデスクのカズヤ君が、僕のお弁当箱を覗いてそう呟いた。
「あっ…、ちょっと…最近疲れ気味だから…スタミナつけようかな、ってね…あはは…」
「…そうですか」
ポーカーフェイスなカズヤ君は、ほんの少しだけ眉を潜めて僕の顔を一別し、すぐ自分の手元の資料に目を戻した。
「…カツノリさん」
「?なぁに?カズヤ君?」
カズヤ君はこちらを見ないまま呟く。
「必ずしも、独りで生きるということが、強いことではないかもしれませんよ。」
「えっ?」
「…誰かと共に生き、その人の為に生きようとする方が、お互いの為になるかもしれません。……まぁ…私は誰かの為に生きるのなんてまっぴらですがね…。」
「…カズヤ君……」
「私は仕事熱心なカツノリさんを尊敬していましたが、最近のカツノリさんは、以前よりミスも目立つし、なんだか頼りないですね。」
カズヤ君は席を立ち上がり、こちらを見もせず行ってしまった――。
はぁ…はぁ…
ここは何処だろう
いつまで僕は走っているんだろう
どうして僕は走っているのだろう
僕は何処に向かって走っているんだろう
「会社に…出社していない?」
「あぁ…出社してないどころか欠勤届けもきてないぞ。お前のところにいるんじゃなかったのか?」
翌朝、私はバトルカンパニーに電話しました。
カツノリさんのことが不安でしたので…。
カズヤさんに聞いたところ、カツノリさんは会社にも連絡せず、
家に電話しても留守。
そして、携帯に電話しても留守のまま…
勿論、私は昨日の夜から、何度もカツノリさんの携帯に電話をかけ、
メールも送りましたが…
「あ、お仕事中なのにありがとうございました、カズヤさん…」
「マサシ…」
「あ、はい」
「カツノリさんは…お前がいないと、駄目人間だよ」
「え?」
ガチャ………ツーッツーッツーッ……
会社にも家にも何処にもいない…
幸せの青い鳥よ
貴方は今、何処で鳴いているのですか
はぁっ…はぁっ…
走っても、走っても、道は続く
僕は、何処に行けばいいんだろう
無断欠勤して、会長やカズヤ君、怒ってるんだろうな…
今日、大事な会議あったのに…
あっ、今日ゴミ出す日だったのにな…
せっかく昨日のうちにゴミひとまとめにしておいたのに…
………
マーくんは、
今頃僕を探して大慌てしてるかな…
それとも、
もう、僕のことなんか…
………
何時しか雨が降り始めて
傘のない僕はびしょびしょ
…帰ろうか
誰もいない、僕の家に
ガチャッ
ただいま。
真っ暗で、静まり返った寂しい家。
なんだか、疲れちゃった…
お腹ぺこぺこだけど、もうこのまま寝ちゃおうかな…
…あはは、走りすぎてふらふらだ…
二段ベッド…
マーくんは寝相が悪いから
落っこちないように下にしたんだよね…
何時か帰ってきてくれるんじゃないかって、
マーくんが行っちゃってからも、
このままにして、
毎日はしごで上にあがって
寝てたんだよね…
でも今日は疲れちゃったから
このまま下の方で寝ちゃえ…
どうせ、
もう、マーくんは
帰ってこないんだから
ボフッ
倒れるようにお布団に飛び込む
疲れて雨で冷えきった身体は
お布団の温もりを喜ぶ
…温かい…な……
あっ…
お布団から、
マーくんの…匂いが…する……
マーくん、寝相悪くて、
朝になったら、よく、
このお布団と一緒に床に落っこちてたっけ…
寝相は悪いし、
いびきもうるさかったなぁ…
マーくんとの初めてもこのベッドだったっけ…
酔っ払ったマーくんのネクタイを引っ張って…
マーくん、酔った勢いとはいえ、意外と激しかったなぁ…
………
「マーくん…マァくぅん…うっ……ひっ、く…」
お布団をぐしゃりと掴んで
顔に引き寄せる
僕の濡れた身体と涙が
お布団のシーツに染みる
お布団も僕の顔も
濡れて、歪んでぐしゃぐしゃ
お布団からはマーくんの匂いがするけど
マーくんは
もう
ここには
いないの
「うっ…ひっ…、ばかぁ…ばかマァくん…ばかぁ…ばかぁ……」
でも、もう前みたいに馬鹿じゃなくて、
立派になっちゃって、
僕がいなくても…
………
「…あれ?」
ベッドの隙間に、何か…挟まってる…?
なんだろう…
あ、
これ、
マーくんの…ネクタイ
この柄…
僕が、マーくんの誕生日にプレゼントして、
何時の日かマーくんが
見つからない!見つからない!この世で一番大事なのに!
…ってすっごく喚いて、
マーくん一日中探してたっけ…
こんな所にあったんだ…
このネクタイ、洋服屋さんで
1時間ぐらい、すっごく悩んで選んだっけ…
マーくんに似合いそうな柄…
もう…大事なもののくせに
こんな所で、こんなぐしゃぐしゃになってて…
馬鹿なんだから…
…馬鹿なんだから……
「はぁ…はぁ…ここにもっ…いない…」
ライモンの待ち合わせ場所。
昨日のホテル。
この前のデートで行った建物。
心当たりのある場所は全部回りましたが
カツノリさんは何処にもいませんでした。
終業時刻になるや否や、ジムから飛び出て、
カツノリさんの携帯にすぐ様電話しましたがやはり繋がらず、
バトルカンパニーに電話をしてもやはり今日は来ていないとのこと。
そして、自宅に電話しても留守。
カツノリさん、一体何処にいるのですか?
ポツポツと雨が降ってきました。
天気予報を見忘れた私は、
勿論、傘なんて持っていませんでした。
カツノリさん、何処か屋根の下にいらっしゃればいいのですが…
カツノリさんは、この雨と一緒に泣いているのでしょうか…
あぁ、早く、見つけてあげないと、カツノリさん、
風邪をひいてしまうかもしれないのです。
でも、一体何処にいらっしゃるのでしょう。
もう、心当たりのある場所が思いつきません。
私の幸せの青い鳥。
貴方の為に、強くなろうと、
頑張ったのに、
どうして貴方は
私の前から消えてしまったのですか?
………
――♪――♪
…!!
携帯の着信音…!
この音は…
「カツノリさん!!」
私は電話を出ると、
すぐさま、その着信音の主の名前を叫びました。
「………」
「カツノリさん!聞こえますか!?マサシです!!今何処に!!?」
「………」
「カツノリさん!残念ながらこっちからはカツノリさんの声しないのですが!ですが私の声聞こえますか!?雨降ってますが傘持ってますか!?何処か屋根の下にいますか!?そっ外にいらしたら何処か雨宿りしてくださいね!?えっと…後、あっ昨日のホテルのお金払ってあるので大丈夫…じゃなくて、今こんなことどうでも良くて!えっと、カツノリさん!聞こえてます!?今何処にいらっしゃいますか!!?」
ずっと沈黙を続けていた携帯電話から、
クスクスと笑い声が聞こえる。
少し、ひくひくと悲しげな音を混じらせながら…
「…もう、慌てすぎだよ…馬鹿マーくん…」
「す、すみませ…って!カツノリさん!良かった!聞こえました!カツノリさん!私の声、聞こえます!?」
「うん…最初から…マーくんの声…ずっと聞こえてた…」
「良かった…雨の日って電波悪くなる時とかあるじゃないですか…じゃなくて、カツノリさん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫…じゃ、ないかも…」
「あわわわわ…、ちゃんと雨宿りできてます!?いいい今何処にいるんです!?」
「…さぁ、何処だろうねぇ」
「カッカツノリさん…頼むから、教えてください…」
「ふふ…僕は何処にも行ってないよ?…ばいばい、マーくん、さよなら…大好き」
ガチャッ
「あっ、カツノリさん!?カツノリさん!!? …うっ、切れてしまった……」
何処にも行ってないって…何処にもいないじゃないですか……。
………もしかして……。
私は、全速力で駆け出した。
「…なんで、電話しちゃったんだろ…あんなこと言っちゃったんだろ…ばか、僕のばか…ばかぁ…」
馬鹿なのは、
マーくんじゃなくて、
僕だった
マーくんが僕がいないと駄目な子じゃなくて、
僕がマーくんがいないと駄目な子だった
「うぅ…ひっく…マァくん…マァくんがいないと…僕、ひとりぼっちだよぉ…マーくん…ふわっ、ふわぁあん…」
やだよぉ…寂しいよぉ…
助けて…マーくん…
ドンッドンッドンッ
…??何の…音…?…ドア…?
誰かが、ドアを…叩いてる?
「カツノリさん!!!カツノリさん!!!いますか!!?いますよね!!?開けてください!!!」
…うそ…、マー…くん?
僕は、玄関の方まで近寄る
「マー…くん…なの?」
「あっ!カツノリさんの声!!やっぱり!!ここにいた!!良かった!!あ、開けてくださ…ハックシュン!!」
「マ、マーくん、くしゃみして…だ、大丈夫?寒いよね、今開けるね…!」
ガチャ…
マーくんだ
本当に、マーくんだ
此処にいるって、言わなかったのに、
来てくれた
リゾートデザートを突っ走って来たのか、
砂と雨でスーツも髪の毛もぐちゃぐちゃ
ぜーはーぜーはー息を切らしてる
こんな、僕の為に…
こんなになってまで…
僕の所に…
マーくんは、僕の顔を見ると、
にへらっとマヌケそうだけど優しい笑顔になった
僕が、大好きな、
マーくんの、笑顔…
「ぜー…はぁ…良かったぁ…カツノリさん…やっぱり此処だったん…です…ね…」
「どっどうして…此処って…わかったの…?」
「幸せの青い鳥は、ひとりじゃ籠の中から、出られないかな…って……」
「えっ」
「でも、本当に良かった…」
ギュッ
「やっと、捕まえましたよ。私の幸せの青い鳥。」
マーくんの大きな両腕が、
僕を包みこむ。
嬉しくて、嬉しくて涙がまた出ちゃうよ。
「あっ、す、すみません!私、こんなに砂と雨でぐしゃぐしゃなのに…」
慌ててマーくんは両腕を離す
もう…今はそんなこと気にしなくていいのに……
ムードぶち壊しじゃないか…馬鹿マーくん…
「でも、さ…」
「はい、なんですか?」
「マーくん、僕の家の合鍵、持ってなかったっけ…?普通に開けれたよね?」
「っあぁ!!!!!」
マーくんは頭の後ろに手を当てて、そうでしたよね…つい焦ってしまい……っと苦笑する
でも、そんなマーくんが大好きです
「…っで、あの…それで、ですね…カツノリ…さん……」
「ん?なぁに?マーくん」
マーくんは何故か顔を真っ赤にして、
目をそらしながら、肩をわなわな震わせている。
「あのっ…その…これ…っを…っ……」
耳まで真っ赤にさせながら
マーくんが僕に差し出したのは、
1つの鍵だった
「?なぁに?これ?僕の家の鍵?」
「か、カツノリっさんっ!!!!!!!」
マーくんは僕の手をぎゅっと握りしめた。
「あっ、あのっ、そのっ、カツノリさんっ、此処よりっ、遠くなってしまうのですがっ…!」
「えっ?えっ?」
「あ、あのっ、ラ、ライモンにっ、ててて手頃なっ二人用のっ、あっあっアパートが… あっ……て ………」
「えっ、そ、それって…つ、つまり……」
顔が熱い。
きっと、僕の顔も、
マーくんに負けないくらい
真っ赤なんだろう。
「らッライモンならっ、ホドモエとヒウンの中間地点だし…い、いいかなって……あっ、でも、か、勝手なんで、いやだったら断っても…」
「ばかっ」
「わっ」
僕はマーくんに思い切り抱きついた。
「いやな訳ないじゃないか!ばか!馬鹿マーくん!もう馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!!」
「あわわ、わわわ、かっカツノリさっ」
「大好き」
ドクンッ
心臓の高鳴る音。
この音は僕とマーくん、どちらのだったのだろう。
マーくんは身体を少しだけ離し、
僕の顔を見つけると、
僕の唇を奪った。
僕らの新しい生活の
始まりを告げた鍵が、
シャリン…と
音を立てて
床に落ちた。
僕らは今までで一番長いキスをした。
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