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04.30
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リョウタ×トシオ
『リバーシブル』
前半後半2つにわけますます。
後半ちょっとブラックになる予定っす








『リバーシブル』

船に乗り始め、何時間が経過したであろう。
船内の個室の小窓から外を覗いても、
見渡す限りが、蒼。

光が反射し煌く海は、美しいが、
流石に30分も眺めていれば飽きてしまう。

暇潰しに読もうと思って買った、くだらない推理物小説も
とっくに読み終えてしまい、2度も読む気もせず、
ただただ、船が早く到着してくれるのを願うばかりである。

だが、これで、やっと、この半年の出張生活に終止符が打たれる。
元々一人暮らしをしていたとは言え、
未知の地方での生活は大変だった。
名前も属性も知らないポケモンしかいなく、戸惑う毎日であった。
まぁ、でも色々良い経験になったと言えばなったがな…

「まもなく、イッシュ地方、ヒウンシティにご到着いたします―」

アナウンスの声が部屋に流れてくる。
汽笛の音がゴォォ…と鳴り響き、窓からもう一度外を覗けば、
進行方向に数々建並ぶビルがある、
そう、俺の会社のあるヒウンシティ。
人が多いわ、空気は汚いわで何の魅力もない街だと思っていたが、
やはり半年もそこから離れると、そんな窮屈ささえ恋しく感じてしまうとは、
人間の感覚は皮肉なものである。
だが、俺が本当に恋しく感じているのは、この街ではない。

「ご乗船ありがとうございました、お気をつけてお帰りくださいませ―」

窮屈な船室から飛び出し、早々と船から降りる。
そして、窮屈な俺の故郷ヒウンシティに帰ってきた。
結局、帰ってきた場所も、人だらけ、仕事だらけの窮屈な街だが、
半年出張という拘束からの解放感はそれを忘れさせる。

港に降り、ふぅ…と、身体の節々を伸ばし、外の空気を思い切り吸い、吐く。
相変わらず汚い空気だが、その汚ささえ、そこはかとなく嬉しく感じる。
伸びをしながら辺りを懐かしげに見回していると、
オフィス街の方からこちらに向かって、駆け出してくるスーツ姿の青年を見つける。

あぁ、あんなに頑張って走らなくとも、俺は逃げないと言うのに。

「リョォータさぁぁあああん!!
 おかえりなさぁああああい!!!!!」

まるで、ご主人様を見るや否や、
すぐさま駆け寄ってくる小動物の様に愛らしい俺の恋人、トシオ。

嬉しそうに手を大きく上にあげて振り、
目を輝かせ、微笑みながら、
ぱたぱた走ってくる。

俺が、半年の出張で、一番恋しかったもの。
やっと、俺の元へと戻ってきた――。



俺とトシオは同じ会社に勤めていて、新入社員として入社してきたトシオが、
先輩の俺に仕事を教わっている中で俺に魅力を感じたらしく、一年目のバレンタインの日に告白された。
恋人もいないし、最近独り身なことに憂いを感じていなくはなかったので、俺はこの子と付き合うことにした。

まるで、愛犬のように、俺の姿を見ただけで、何が嬉しいのか、尻尾を振らすかのように嬉しそうな顔を向けてくる。
俺が残業の時もわざわざ社内から近くのカフェで俺を待っていて毎日のように駅まで一緒に帰っていた。

人気のない所では、手を繋ぐ。
付き合い始めて一周間後程の時に、彼の方が
手を繋いでいいかと恥ずかしそうに尋ねてきたからである。
そんな単純なことさえ顔を赤らめるかわいらしい子。



そして、漸く一ヶ月の時がたつ時のことだった。

「出…張……ですか?」

上司に呼ばれ行ってみれば、半年間、ジョウト地方へ出張の指令。
一ヶ月を迎えるちょうど前日からである。悲しいが仕事なのでやむを得ない。
あの子はどんな顔をするか。

「トシオ。」

「あっ!リョウタさん!お疲れ様ぁ!」

俺を見るや何時ものように嬉しそうに駆け寄ってくるトシオ。
出張のことを打ち明けたらでんな顔をするのだろうか。

だが、仕方のないことだ。
今更断れない。

「トシオ、話しがある。」

「え?なぁに?リョウタさん」

何も知らない瞳が、俺を覗き込む。
やはり、いざ打ち明けるのは少し気まずい。
その愛らしい視線を避けるように目をそらし、口を開く。

「5日後から出張になった。」

「…え?」

何時もの彼の笑顔が、歪んだ。

「行く予定だった奴が身内に不幸があったらしく、俺が行くことになった。」

トシオはまだ状況が掴めずに、困った顔をしたが、何時もの表情を崩さまいと、引きつった笑顔を作りながら、

「へ、へぇそっかぁ…!ちょ、っと寂しいなぁ~…で、でもお仕事だからしょうがないよね!ぁ、そんな長くないんでしょ?何処まで行くのぉ?」

と言った。

「半年だ」

「え…、はん…と、し……も?」

「船でジョウトまで行く。」

「そ、そんな遠く…?」

「ああ…」

「………。」

時が止まったかのような、重い沈黙が続いた。
トシオの青ざめた顔をそっと見たら、目があった。
トシオは目に涙を浮かべていた。

「あ、明日…で……付き合ってから一……ヶ月…だ、よね…?」

「ああ…」

「た、のしく…お祝い…したかったのに…ね……」

「…………………別れるか?」

「えっ!?」


トシオの身体はピクリと震えた。


「ど、どうしてそんなこと、言うの…?!
 ぼ、僕のこと…捨てたくなっちゃったの…?」

トシオの可愛らしい目からボロボロ涙が零れている。

「い、いや、そうじゃない…お前に悲しい思いをさせたくないから、
 それだったら別れた方がお前の為になるかと……ほら…そんな泣くな。」

涙でボロボロな彼の顔を自分の胸にうずくませる。

「そんなこと言わないでよぅ
 …僕、こんなに…リョウタさんのこと…好きなのにぃ……」

トシオは俺のワイシャツを握りしめて、顔を沈めたままヒクヒクと泣く。
それは小動物が寂しそうに鳴く、鳴き声のように愛しかった。
この子は、
俺が思っていた以上に、
俺に想いを寄せているようだ。


「……待っ…て、る…から……」


顔を埋めながら、
声にならない声で、
小さく、だが、強く彼は言った。

「…ありがとう…」

彼の頭をそっ…と撫でてやると、
彼はピクリと少し震え、埋めていた顔を上にして、俺の瞳を覗き込んだ。

それは、主人に捨てられるのか怯えるペットのようでもあり、

俺に口づけを要求しているようにも見えた。


彼が何を求めて俺の瞳を覗き込んでいるかわからない俺は、

彼の頭をぎこちなく愛撫するしかできなかった。

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